馬の歯学+栄養学+心理学  「咀嚼についてのお話、もし馬に十分に噛む時間を与えないと・・・」

 

テレサ・ホランド(Dodson&Horrell・馬の栄養師)2004

(文章の転載には必ずこのページのリンクをお願い致します)

 

小さい頃、お母さんに「ゆっくりよく噛んで食べなさい!」と言われた人は多いかとおもいます。馬も同じように、穴の小さなヘイネットに乾草を入れてゆっくり食べさせたり、穀物飼料にチャフ(切り藁)を混ぜたりします。

 

「ゆっくりよく噛んで食べてね!」そう馬に伝えて、馬が食事に時間をかけ、ただボーっと馬房でつったっている時間を減らすことができたらどんなに良いでしょう。

 

馬のオーナーの皆さんは、愛馬がどれくらいの時間をかけて飼料を食べているか気にしたことがあると思いますが、どうしてチャフを加えるとゆっくり食べることができるのか考えたことはありますか?ゆっくり食べることによる馬への影響とはなんでしょう?

 

噛み千切る・すり潰す

馬は、心理学的に常に何かを噛み続けていたい動物です。もし飼い付けの習慣によってその行動を奪ってしまうと、さく癖や、フェンスや柱、飼い葉桶を噛んだり、垣根や土、はたまたボロを食べてしまうという他の悪い噛み癖があらわれます。

 

馬は24時間に16〜18時間費やしながら、食物繊維を少しずつ食べる動物です。ほとんどの馬は1秒に1回咀嚼します(是非チェックしてみてください!)。つまり、16時間すると16×3600でなんと57,600回、18時間なら64,800回も噛むことになります!

 

ちなみに、1キロの食物繊維を食べるのに、4600回、馬は噛むと言われます。体重が500kgの馬は1日に12.5kgもの草を食べることになります。そしてそれは全体重の2.5%にもあたるのです。

 

馬の栄養士のカダフォード博士はドッドソン&ホレル(英国の馬用飼料会社)の1997年第2回国際飼料学会で、もし馬のオーナーが乾草や青草を減らし、濃厚な穀物飼料、配合飼料、ペレット飼料を増やした場合、馬は噛む回数が激減することを発表しました。配合飼料では1キロにつき1200回しか噛むことをしませんでした。草と比べて約4分の1の回数です。

 

もし、70%を穀物にし、30%を草類にしたところ、12.5kgの飼料を食べ終わるまで、27750回しか噛みませんでした。もし1秒に1回噛む割合でこの飼料を食べ終えたとすると、この馬はご飯の時間に7時間42分しかかかっていないことになります。結果、この馬が満足するだろうご飯タイムの48%しかかかっておらず、この馬はフラストレーションをため、さく癖などの悪い行動を取るようになりました。

 

噛み千切り咀嚼する時間を計ってみよう

エジンバラ大学の研究員と物理学者と工学者が組み、馬の噛みちぎる回数と咀嚼する回数を調べました。ちなみに、「噛み千切る」とは、切歯(前歯)で草をちぎりとること、「咀嚼する」とは、噛み千切った後に臼歯(奥歯)でモグモグとすり潰しながら奥に送ることを言います。

 

回数を数える機械を無口につけ、咀嚼回数を記録します。回数は馬の顎に付けられたトランスミッターに記録されます。又、草を食べている時、どのくらい長く首をおろしているのかを調べる為に首の角度も記録されます。

 

さて、結果の噛み回数は何回でしょう?

これは馬が何を食べているのかにもよります。噛む回数は草地のタイプによって変化します。もし馬が青々とした草を食んでいたら、一回か二回、草を噛み千切るだけで口の中は草でいっぱいになり、その後、飲み込むまで草をおよそ1.6mm以下に小さくなるまで咀嚼します。そして口の中のものを飲み込んで空にするまで、次の草を食べることはできません(例外もありますが)。

 

もし草がまばらに生えている放牧地に放したとすると、噛み千切る回数は更に増えます。

 

図1 Ad-Lib乾草を与えられた馬の噛む回数表

馬の名前

ベッケット

サニー

ソルデロ

グレン

アルバート

体重(Kg)

588

526

522

641

520

24時間に食べる時間の割合(%)

40

51

56

61

64

乾草1キロに対して噛む回数

2733

4611

4371

3618

6242

ボロに残る繊維質の長さ(mm

3.97

3.93

3.65

3.59

4.03

 

表の馬達は皆サラブレッドです。Ad-Libという乾草を食べさせています。馬たちが食べている様子はビデオカメラによって記録され、噛む回数も先ほどの機械によって記録されました。それぞれの馬のボロが収集され、検査されました。繊維が長く残っているボロをした馬は短い繊維が残っている馬より消化がよくないとされます。

 

予想では長く時間をかけて食べる馬やよく噛んで食べる馬(表ではアルバート)は乾草を有効的に消化し、繊維質は一番短くなりボロに残っているはずでした。しかしながら、アルバートのボロには一番長い繊維質が含まれていました。なぜでしょう?それは彼が老齢であることと、彼の歯はパロットマウス(下顎が上顎より引っ込んでいる)であり、臼歯が2つ抜けていました。よって彼の歯は噛みあわせが悪いのできちんと乾草を有効にすりつぶすことができず、彼の消化器官もそれに対応することができなかったのです。

 

よってオーナーさんは馬の歯によく注意して、きちんと歯科技師か獣医師に定期的なチェックをお願いしましょう。

 

馬はどのくらいの時間、草を食んでいられるの?

英国の王立獣医大学では、なんと58時間も実験を重ねました。赤外線カメラを使って、夜の間も記録しました。

 

図2 放牧中に歩く・噛み千切る・咀嚼する平均回数

 

平均

1日に草を食んでいる時間(時間)

15.84

歩く時間(分)

4.33

噛み千切る(分)

34.24

咀嚼する(分)

63.11

咀嚼する(回数)

1.92

 

馬は短い草を食む動物です。よって一度草を噛み千切るだけでは口の中はいっぱいになりません。口の中を草でいっぱいにする為に、何度も切歯で草を噛み千切らなければなりません。

 

馬にもし乾草を与えていると、行動に変化がおきます。乾草は長いので、馬は一度口に入れたらそれで口の中がいっぱいになってしまいます。よって「噛み千切る」より「咀嚼する」ほうが多くなります。

 

次の図を見てください。馬の種類によってそれぞれの時間が違います。

 

図3 乾草を食べている時の、噛み千切る・咀嚼する時間の平均値

 

噛み千切る平均(分)

1回の噛み千切り分で咀嚼する平均回数

咀嚼する平均(分)

サラブレッド

4.6

11.6

53.5

コブ

4.9

12.6

62.2

シェットランド

4.4

15.7

69.5

 

この3つのグループでの咀嚼時間の平均は61.7分、噛み千切る時間の平均は4.6分、平均回数は13.4回でした。

 

また、1kgの乾草を食べさせての平均も出してみました。

 

図4 1kgの乾草を食べた際、1回の噛み千切り分での咀嚼数

 

噛み千切る平均量(kg)

1回の噛み千切り分で咀嚼する平均回数

咀嚼した平均量(kg)

サラブレッド

358

11.3

4081

コブ

359

11.7

4209

シェットランド

757

16.3

12374

 

噛み千切ったり咀嚼する回数に違いが出るのは、口の形による解剖学的なことも関係しています。シェットランドポニーは1分間に噛み千切る数が多く、咀嚼する時間も長いのです。よって彼らは他の大きな馬たちより、何度も噛み千切らないと必要な分の乾草を食べることができないことがわかります。

 

また、草類の質と長さによって噛む様子が変わることが明確ですが、青草は90%の水分を含み、乾草は25%の水分を含むので、青草と乾草を比べることは難しいようです。

 

次は栄養素の計られている乾草をそれぞれ違う長さに切って与えてみました。

 

図5 サラブレッドの場合

乾草の長さ

長さ(cm)

DM咀嚼量(kg)

1時間の消費量(kg)

長い

33

3351

1.364

中間

11

4200

0.849

短い

4

5326

0.821

 

図6 シェットランドポニーの場合

乾草の長さ

長さ(cm)

DM咀嚼量(kg)

1時間の消費量(kg)

長い

33

10460

0.523

中間

11

15830

0.366

短い

4

12500

0.417

 

もしあなたが愛馬に常に乾草を食べてもらうようにするとしたら、長い乾草か短い乾草のどちらを選びますか?

 

馬達は短く切った乾草のほうが良く噛んで食べるので、最終的に1時間に食べた量は少なくなります。しかし長い時間がかけれるので、心理的には満足するのです。馬が満足する為にはできる限り長く咀嚼している時間を与えることが大切です。

 

興味深いことに、牛は馬より草を飲みこむのが早いのです。牛は噛み千切る回数は多くても、咀嚼する回数は少ないのです。牛は一日に8〜10時間草を食み、6〜7時間を反芻に使うようです。

 

唾液について

さて、これで噛むことの心理と歯の状態がいかに大事かわかりましたね。もう一つの重要なことは、「馬は噛む時にのみ唾液を生産する」ことです。噛めば噛むほど唾液も良く出るというわけですね。

 

唾液は潤滑剤として重要な役割を果たしています。もし噛む能力が落ちたら(年齢、歯の尖り、痛み、歯が抜けた、繊維が足りない餌など)、唾液の生産量も落ち、食べ物をのどに詰まらせる原因になります。

 

ではどのくらい唾液を出すのでしょう。また食べ物によっての違いは?ほとんどの書物には1日に10〜12リッターを生産すると書かれいますが、実際には噛む回数によって唾液の生産量も変わるのです。

 

前述の通り、青草より乾草のほうが馬は噛み千切った1回数につき何回も咀嚼します。穀物飼料に草類を入れてあげれば唾液の生産量はあがるのです。

 

図7

 

飼料100gに対しての唾液生産量(g)

食べ終わるまでの時間(分)

青草

71±29

17±13

乾草

433±119

9±2

穀物

189±61

3.5±1.6

 

人間と馬の唾液の違いとは?

私達の唾液は匂いや視覚によって交換神経が刺激され生産されます。食べ物の存在や傷みが口の中で起こると唾液が生産されますし、恐怖は唾液を止めるのです(だから緊張や恐怖で口が乾いたりしますね)!

 

人間の唾液生産量は24時間で1リットルから1.5リットル。これは最後に食べた時間や運動などによって左右されます。しかしながら基本的な量は1分に0.5ml。

 

人間を対象にした研究によると、少数の人間は唾液の生産がゆっくりであるそうです。ゆっくり生産する人々の生産量は1時間に2.5mlから15.8ml、比べて唾液生産量が早い人間は24.6mlから66.6mlにも及ぶそうです。チューインガムを与えて450回かませてみると、遅い人間が54.9190mlを生産するのに比べて、早い人間は38.0187mlも生産しました。これは大きな違いですね。

 

唾液は虫歯の予防にもなりますよ。チューイングガムを噛みながら馬にたくさん乾草を与えてみてはいかがでしょう!?

 

人間の唾液の成分は1913年にベネットによって示されました。

 

·           水 99.42

·           塩 0.22

·           有機物 0.22

·           酵素 0.14

 

人間の唾液はカルシウム、マグネシウム、ポタシウム、リン酸、炭酸水素、塩化物、硫酸塩、硝酸塩を含んでいます。

 

100mlの唾液中に5.1mgから8.6mgのカルシウム、19.32mgのリン酸が含まれています。また11.28mgから28.02mgのグルコースを含んでいます。それから尿素が29mg含まれています。

 

それから大切な酵素アミラーゼ(馬は持っていません)が炭水化物を分解します。若い人だと1mlの唾液中に10から15ユニットのアミラーゼを生産しますが、80歳になるとこれが0.3ユニットまで落ちてしまいます。

 

人間の唾液のpH5から8あたりで、夜になると更に若干酸性に近づきます。胃の中の酸の動きが止まる前に食べ物が胃に到着するよう、唾液を中和する役割をし、アミラーゼを有効に働くようにさせます。

 

何回噛むかは人によります。年齢や食べる時間、食べる速度、おなかの空き具合など。

 

もしあなたの馬がきちんと草の生えている放牧地に放牧中に、土、切り株や垣根を食べようとしているならば、その馬はただ心理的に噛む欲求を満足させたいだけの可能性があります。春の草には高い可溶性の栄養価が含まれていますが繊維質は少なくなります。よって乾草を好んで食べることも多くなるのです。

 

大事な愛馬には、草地に生える青草と、短く切った乾草を、少量ずつ長い時間わけて与えることが全ての健康の秘訣です。"Feed little and often"馬の飼料管理の大前提です。

 

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